まちと向き合い人とつながる
公園リニューアルから始まるストーリー
【つくば官民連携プロジェクト vol.1】
2020年11月、つくば市×フージャースコーポレーションの官民連携でのプロジェクト「つくば中心市街地竹園1丁目 公務員宿舎跡地開発プロジェクト」が完成しました。
このプロジェクトは、フージャースコーポレーションの「デュオヒルズつくばセンチュリー」の開発に伴い、魅力あるまちづくりの推進を目的とした覚書をつくば市と締結し、マンションだけでなく隣地公園も合わせて総合的に開発したプロジェクトです。
既存樹木の保全や周辺環境と調和したマンションのデザイン、隣接する公園のリニューアル、ベーカリーカフェ新設など地域の魅力を最大限に活かしました。さらに、地域住民のコミュニティ醸成やエリアブランド価値の継続を図るために、地域企業とともに地域住民主体の公園芝生育成も進めています。
今回はプロジェクトの完成を受け、開始当初の2017年からを振り返ります。次回はつくば市長 五十嵐立青氏、株式会社クーロンヌジャポン代表 田島浩太氏からのメッセージを掲載します。
プロジェクトのはじまり
私たちフージャースコーポレーションは、つくば市において2007年からの14年間で戸建てとマンションを合わせて1497戸の住宅を供給してきました。そして今回、このプロジェクトの企画が始まるとき、これまでの歴史を振り返りながら、他の街にはない、つくばの街が持つ素晴らしい資源をより活かしたものづくりができないかと考え始めました。長年、つくばというまちと向き合ってきた当社だからこそ、まちのためにできることが何かあるのではと考えたのが始まりです。
計画当時、東京都豊島区の南池袋公園がリニューアルを機に、エリアブランド価値が上がり周囲に人気店が出店し、人々が集まっているというニュースが社内で話題になりました。
そうか、公園の活用はまちに大きな影響を与えうるものなのかと気づき、計画地に隣接する「竹園西広場公園」に目が留まりました。インターネットで調べてみると、その公園は、市内の他の公園よりも利用率が低いという結果を示す調査も見られました。
しかし、開発敷地外の公共空間である公園を、民間企業である私たちが手を加えることができるものなのか、そもそも市民はそれを望んでいるのか、こういったことの相談をしに、つくば市役所に行ったのが2017年10月でした。
つくば市の魅力を最大限に活かす開発とは
つくば市には、多くの国家公務員宿舎や研究・教育機関宿舎があります。これらは建設当時、良好な都市環境の創出や研究学園都市としてふさわしい住宅とするため、様々な計画に基づき整備されており、つくばの特徴的な街並みを形成しています。しかし近年、国の政策などにより国家公務員宿舎の削減と開発が進んでおり、つくば市は、つくばの魅力的かつ特徴的な都市環境を継承するために、本土地の開発者に対し、既存樹木の保全や周辺と調和したデザインにすることなどの要望を提示していました。
つくば市に、そういった魅力あるまちづくりを実現するための強い思いがあったことから、私たちの提案についても前向きに検討頂けることになりました。
実現するための制度を模索したり、市民へのアンケート調査を行ったり、一丸となり検討を進めました。そして、さらなる連携を行うため、2018年11月にフージャースコーポレーションとつくば市で「竹園一丁目国家公務員宿舎跡地における魅力ある開発の推進に関する覚書」を締結することになりました。
全国でも前例がない非常に難しい案件であるにもかかわらず、一緒に悩み取り進めていただいたつくば市には大変感謝しています。
市民にとって豊かな都市空間デザインとは
今回、竹園西広場公園は、芝生広場をメインとしたリニューアルを行っています。つくば市の所有する公園を舞台に、ランドスケープデザインの専門家である関東学院大学准教授の中津秀之先生にご指導いただきながら、どのようなデザインにすれば市民にとって居心地がよく、人々の集まる場所になるかを考え抜き、公園をいくつかの空間に分けてデザインしました。大人も子どもも思い思いに過ごせる芝生広場、小さな子どもが楽しめるすべり台、大人が落ち着いた時間を過ごせるウッドデッキ、自転車やベビーカーが通りやすい園路です。
今回のプロジェクトを通して改めて感じたことですが、見栄えだけがかっこいい、というだけでなく、そこを使う人々がどう暮らすのか、そこまで考え尽くすことこそがデザインの真髄である、と気づきました。
また、このプロジェクトは公園リニューアルのみに終わらず、マンション開発地との敷地境界線への工夫があります。
通常、土地は「公的空間」と「私的空間」が明確に分けられています。誰の所有物であるかを明確に区切ることで、その土地の所有者や利用者にとって管理がしやすくなり、トラブルが起こりにくくするためです。しかし、土地を分断することは、市民の豊かな風景体験を妨げるともいわれています。
つくば市と私たちは、その大きな課題に向き合い、まちにとって、市民にとって、いかに魅力ある空間を提供できるかに挑戦しました。そして、敷地境界線に明確な柵をつくらず、デッキや階段を用いることで、あえて敷地境界を曖昧にすることに成功しました。
マンション敷地内のカフェはだれでも自由に使えるもので、公園での食事も楽しめるようにデザインしていますし、マンションの1階共用部からは公園が見えるようにもなっています。
そして、つくば市の魅力である歴史ある木々を生かした開発を進めるために、敷地や公園を含む周辺の樹木に対して樹木医による調査を、つくば市とともに実施しました。病気の樹木は伐採対象。他はできるだけ樹木を生かす。しかし暗い雰囲気にはならないよう、つくば市と調整しながら、全体のバランスを整えました。
公園とカフェのつながり
公園がリニューアルされたあと、何度か公園利用者の方にアンケートをとらせていただいたり、交通量調査を行ったりしました。
アンケートでは「明るい雰囲気になって使いやすくなった」「すべり台が遊びやすくて良い」など、嬉しいご意見をたくさんいただきました。一方で、交通量調査で分かったことは、利用者が増えてはいるものの、多くの人は滞在時間がとても短いということでした。ファミリーは、子どもがすべり台で楽しんでいる間滞在しますが、大人だけの場合はくつろげる場所がないために滞在時間は短くなったのだと思います。せっかくきれいな公園になっても、これでは市民に愛される場所になったとはいえませんでした。
そんな中、公園リニューアルから1年が経ち、いよいよベーカリーカフェ「Café Boulangerie Takezono」(株式会社クーロンヌジャポン)が待望のオープンを迎えました。
そして、つくば市のご理解、クーロンヌのご協力を得て、公園のウッドデッキ部分にテーブルとイスの設置や、ゴザの無料貸し出しをはじめました。テーブルとイスやゴザは、カフェの利用者だけでなく、だれもが自由に使えるものです。
美味しいパンとドリンク、そしてきれいな公園。子どもたちが遊んでいる様子を見つつ、大人は自分の時間を楽しめる空間を生むことができました。
ベーカリーオープン後のアンケートや交通量調査は、まだ行っておりませんが、この春に実施したいと思っています。
クーロンヌは、私たちの「まち×人」「人×人」のハブになってほしいという提案に対し、大変共感してくださいました。クーロンヌにとっては、店舗が道路に面していないなどの新しい挑戦があるなかで、このように私たちと同じヴィジョンをもって、まちづくりに向きあってくださっていることを大変ありがたく思っています。
持続的な価値をまちに提供できるのか
2020年11月、マンションやベーカリーカフェが開店し、プロジェクトは完成となりました。これまでのマンションであればこの後のかかわりは、管理会社による入居者同士のコミュニティ醸成を進める取り組みや、不具合箇所の修繕などの対応が中心でした。
しかし、今回のプロジェクトはマンションだけでなく、公園も手掛けたことにより、まちの人々も巻き込むものとなりました。それであれば、入居者だけでなくまちの人々のコミュニティ醸成や、公園価値の維持もすべきなのではと考えに至りました。
そこではじめたのが、「つくばイクシバ!」です。
竹園西広場公園がたくさんの人によく使われるためには、芝生を維持することが重要だと考えました。そして、その場所が人々から愛されるためには、まちの人々と一緒に育てることが重要だとも考えました。
住民たちが自分たちで、自分たちの居心地のよい場所を育てること、そして育てること自体を楽しむこと、それが、持続的な価値につながると思っています。
その想いに賛同してくれたのが、クーロンヌと、公園のすぐ近くに本社を置く地域密着型不動産会社である一誠商事株式会社です。芝生を育てる技術の指導は、東京都中央区の公園芝生を育てるイクシバ!プロジェクトに依頼しました。
2020年6月の立ち上げ以降、日々芝生の様子を観察し異変があればすぐに処置をしたり、夏場の成長期には芝刈りをしたり、年間通して雑草を抜いたりなど、市の通常の管理では行き届かない細やかな管理を、まちの人と一緒に行っています。
また、公園でピクニックを楽しむ方々のために、ゴザの無料貸し出しも行っています。それは、通常のレジャーシートは通気性がわるく、蒸れて芝生が弱ってしまうためです。また、同じ場所を何度も擦ってしまう縄跳びは芝生以外で行う、刺激が強すぎて芝生が剥げてしまう犬のおしっこには気を付ける、などのお願い事も貼り出しています。その結果、利用する方々には、理由を理解したうえでの場所の使い分けが、定着してきています。
これらの活動は、まちのみなさんに公園をもっと活用してもらいたいということ、そして「芝生はみんなで守るもの」という共通意識をもってもらうことの、ふたつの目的から行っています。
「だれか」だけが頑張るのではなく、所有者・管理者・利用者それぞれがそれぞれの方法で芝生や公園を育てていける環境をつくりたいと思っています。
「つくばイクシバ!」の活動については、コロナウイルス感染症対策の点からも、あまり大きく告知はできていませんが、それでも少しずつ地域住民の方に広まっており、毎月新しい人が参加してくれるようになりました。
「芝生育ては地域育て」というコンセプトのとおり、芝生を育てる、公園を育てるという目的で集った人々の輪が、自然と広まっていくことを願っています。
今回のプロジェクトでは、官民が連携してまちに向き合い、つくばの魅力を最大限に活かした公園のリニューアルやマンションとベーカリーの開発を進めてきました。そして、プロジェクトが完成した今は、地域住民や地域企業と一緒になって、公園を育てながら人とつながるコミュニティを育てています。
フージャースとして、「つくばのまちのためにできることが、何かあるのでは」という問いから始まったプロジェクトです。ぜひこれからもご着目ください。
また、お近くの方は「つくばイクシバ!」の活動にもぜひご参加ください。