芝を我が子のように愛する人たち
【公園のある暮らしインタビュー vol.5-2】 育てる芝生 〜イクシバ!プロジェクト〜
ここではみんな芝のことを「この子、この子たち」と呼びます。芝がきちんと育っているのかがいつも気になってしまうのです。そのため芝生のことが頭から離れず我が子のように思うようになり、いつしか芝に心を奪われるほど愛情を注ぐのだそうです。
はじめは社会のために、地域のために、子どものためにという動機から始めても、いつしか頭の中はいつも芝のことになり、活動日以外でも、時間があれば有志で雑草とりをする方も増えているとのことです。そのことを「私たちは芝奴隷」と笑って話してくれました。
定期的な活動は毎週日曜日、季節によって作業量や活動時間帯は変わりますが、通常は朝の9時から1時間程度です。参加者は15名から20名、子どもからご高齢の方までみんな楽しそうに芝刈りや雑草取りをしていました。
前回の記事では幹部のおふたりの話を紹介していますが、今回は活動の様子の紹介と、参加されている4人のメンバーの方の話を紹介したいと思います。
活動の様子
1 芝刈り:芝育てのメインイベント。生育期に行う。芝刈り機を一列になって刈り込んでいく子ども達。あっという間に狩った芝がやまのように。
2 雑草とり:年間を通して行う。地道だが大切な作業。雑草が芝の生育を阻んでしまう。特に黎明橋公園では、ハマスゲというカヤツリグサ科の多年生雑草が多い。ハマスゲの除去は技が必要で、それだけを黙々とやりつづける通称「ハマスゲバスターズ」が数名いる。葉の部分や浅い根だけとってもすぐに葉が生えてきてしまうため、根にできる塊茎(かいけい)と呼ばれる球根のようなものを全て取り除かなくてはならない。
3 散水:芝刈りや施肥のあとに行います。特に気温の高い夏場はたっぷりの水が必要です。
4 大規模捕植:今年はコロナウイルスの影響で自粛期間があり、出かける場所を失った街の人々が公園に集まったため、踏圧過多により新芽がなくなってしまうという事態が起きた。
「芝生復活大作戦!」としてポット苗を1500個、土に穴をあけて埋めていったのだそう。通常なら芝を張るのですが、ポット苗を植える方が根がしっかり張るため、自力で1個づつ植えたそうです。見栄えが良くなるまで時間はかかるし手間もかかりますが、費用も安く、強い芝が育ちます。ひと月半で見事に復活。メンバーの方も奇跡のようだと話していました。
5 養生:黎明橋公園では6月に大規模な捕植を行ったため、芝がしっかり育つまで人がはいらないように一部に養生をしていたが、この日はその養生を開放する日だった。
活動メンバーの話
藤江さん
かつて、芝生が張られる前の広場のひどい土壌の状態を知っていました。
ですので、はじめは代表の尾木さんや長尾さんの話を聞きながら、芝なんか育つのかと遠目に見ていたのだそうです。しかし彼女たち2人の行動を見ながらその本気度に心を動かされ、それ以来献身的なサポートをしています。
ほぼ毎日早朝の涼しい時間帯に雑草取りをコツコツしているそうです。公園に人が来る前にそっと帰っていく影のような彼の活動ぶりに、メンバーからも一目おかれる存在です。「もう年だし辞めようかと思ったことも何回もあるが、活動日の日曜が来るとどうしても気になってきてしまうんです」と笑っていました。
川端さん
元気いっぱいのお子さんを休日に遊ばせられる場所を探していたところ、この活動を見つけました。はじめはただ子どもが楽しそうなのでその見守りという立場だったのですが、今ではすっかり芝生のとりこになり、メンバーを先導する立場に。「僕たちはみんな芝生奴隷なんです」と笑って話す姿が印象的。最年少35歳。ホープです。
活動は、ここ3-4年で親子連れが増えたと思います。小学校に入る前くらいの子を連れたお父さんも増えましたしね。当時の僕と同じように、早く起きちゃう子どもを朝から遊ばせる場所を求めて来る人が多いのかもしれません。どうしても家にいるとテレビを見て過ごすようになってしまいます。体力を使わせるのに、朝の公園はとてもいいです。
さらに参加者の方同士が互いに子どもを見てくれるのも安心ですね。子どもは活動に来たら、友達やじいじばあばがいて楽しいし、僕にとっては子どもをずっと見ている必要もなく楽だとも言えますね。
また、活動のあとの爽快感、満足感も最高です。今は夏なので梨を剥いて持って来たり、アイスをみんなで食べたり。子どもたちもとても嬉しそうです。そんな活動の後の時間も楽しみです。
衣川さん
スタート以来8年間活動を続けています。暑い日も寒い日も元気に活動できる秘訣は「公園で遊ぶ保育園の子どもたちの声が聞こえるととてもうれしくって。もっと頑張らないと!と思うんです」と話しながらにっこり。
小学生高学年になると子どもだけで来る子も増えてきます。親が、子どもが夢中になっているからなにごとかと見に来て、自分も活動に参加する人もいます。こうして子どもでも芝生マニアに育っていく。
やってみると、とにかく土いじりが最大の魅力です。なかなか都内でこんな風に土・草や自然に触れ合うところはないでしょう。
活動の持続はいろいろ大変なことはありますが、熱い気持ちを持つリーダーがいるからみんなが集まってくるんです。
私は家がすぐ近くですから普段から公園の様子を見ています。芝生にとってよくないビニールシートを使っている人がいたら声をかけに来たりもします。気持ち良い芝生を守るために、みんなで気持ちをひとつにしたいですよね。
菊田さん
約5年間活動しています。早期退職し、様々な地域活動を行っていますが、ここの活動は、街の人老若男女がみんなで一緒にやっているから本当に楽しいです。だから遠くても毎週来てしまう。私は近所に住んでいるわけではないんですよ。活動がしたくて通っています。
参加のきっかけは、代表の尾木さんに誘われたこと。遊びにきたらそのまま入ってしまいました。
地域活動は行政との連携が大事、行政の担当者によって活動への理解は様々だが、それでも根気強く連携していかなければいけないです。
また、一般の人たちは、公園の芝生の管理、普通は誰がどのように管理しているかは知らないと思います。通常は行政がやっていますが、ここではこうやって街の人たちが管理している、そこに意味があるのです。行政や業者は管理するといっても、こまめな観察は難しいし、熱心な行政担当者がいたとしても、いつ変わってしまうかわからない。ここのように、公園を利用する人たちが管理することで、芝生を大切に思う気持ちを共有しやすいのです。そのことがこの活動で何よりも重要です。管理側にも興味を持ってくれればもちろんうれしいが、そこまでじゃなくても少しでも芝生に興味を持って利用法を考えてくれるだけで充分。その気持ちの連鎖できれいな芝生、心地いい空間は守られると思うのです。綺麗にすることはもちろん大事だが、その活動自体を楽しめること、活動を知ってもらうことが必要です。
暑い日差しの取材でしたが、みんなが楽しそうに芝の手入れをしている様子が伺えてとても楽しかったです。
自分たちの住む地域の公園を自分たちで育てていくこと、関わっていくこと、そこからその地域への愛情が育っていくのでしょう。美しい公園の裏側にこうした活動をしている人たちを知ることで少し公園の見方が変わったように思います。