人のつながりを生むランドスケープデザイン

【公園のある暮らしインタビュー vol.6】 ランドスケープ・デザイナー 中津秀之さん

竹園西広場公園の芝生広場(2019年撮影)

「デュオヒルズつくばセンチュリー」の横にある竹園西広場公園がリニューアルして2年目の夏を迎えます。
リニューアル後には、マンションが完成してたくさんの人が新生活をスタートしたり、隣接地にはベーカリーカフェがオープンしたり、様々な変化がありました。
公園を歩けば、幼稚園のお迎えのお母さんたちが楽しそうに話す隣で芝生広場をかけまわる子どもたちや、ピクニックを楽しむ家族、木陰でくつろぐ大学生のカップル、マウントに横一列に並んで座っておしゃべりする小学生たち。時には早朝にヨガをしているグループも見かけます。
利用の少なかったリニューアル前の竹園西広場公園とは雰囲気が大きく変わり、明るくて開放的で、大人にも子どもにも居心地のよい公園として愛されるようになりました。

多くの人に利用され、コミュニケーションが生まれる竹園西広場公園には、そのランドスケープデザインに工夫があります。今回は、デュオヒルズつくばセンチュリーと竹園西広場公園のランドスケープデザインを手がけた、ランドスケープ・デザイナーであり関東学院大学 建築・環境学部 准教授の中津秀之さんにお話を伺いました。

人のための街路「ペデストリアンデッキ」

ペデストリアンデッキ(2018年撮影)

「知人の建築設計事務所から、集合住宅のランドスケープ設計依頼を受けた時、いつもより嬉しかったのは、計画地が母校の筑波大学があるつくば市だったからです」、中津さんは話しはじめました。
中津さんが筑波大学に入学したのは、筑波万博が開催された1985年。今から36年前のことです。当時、毎日のように授業で聞いていた単語が「ペデストリアンデッキ」。これは歩行者・自転車専用通路のことですが、直接そう言わずに、どうしてあえて特別な単語で表現するのか、当時は理解できなかったそうです。しかし卒業後、設計者として働く中で、車を気にすることなく街なかを移動できるペデストリアンデッキの仕組みの素晴らしさに、改めて気付いたといいます。
当時、つくばは日本で初めて、ペデストリアンデッキを骨組みに計画された街で、全国的にも注目されていました。
「都市デザインの設計者でもあった筑波大学の先生たちの確固たるプライドの表れとして、『ペデストリアンデッキ』と呼ばれていたのだと、今は思います」と、中津さんは笑顔です。

つくばの街に活気を取り戻したい

リニューアル前の竹園西広場公園(2018年撮影)

設計の依頼を受けて、30年ぶりにつくばの街に降りたった中津さん。駅からペデストリアンデッキを通ってマンション計画地に向かうまでの道は、思い描いていた風景とは全く異なるものだったそう。
「新しいマンションが多く建って、街で暮らす人はたくさんいるはずなのに、街自体は寂しい空間に見えました。つくばの街を象徴するはずのペデストリアンデッキには雑草が生えて、舗装も荒れて。ペデストリアンデッキにつながる閉鎖された公務員宿舎を横目に見ながら、たどり着いた竹園西広場公園は鬱蒼と木々が生い茂っていて、行き止まりのように見えました」。
中津さんはそれから、ペデストリアンデッキや公園を歩き回り、街の人の暮らしぶりを観察しました。そして、街に活気を取り戻すためには、マンションや公園が敷地の外とつながる設計をすることが必要だと確信したそうです。

街とつながる空間設計

現在の公園デザインに行きつくまで、図面は何十枚も描かれた。

「かつて、つくばの街は、ペデストリアンデッキと公務員宿舎、公園の全てがフラットにつながる空間で、敷地境界線をフェンスで閉ざしてはいませんでした。その後、セキュリティの問題などで住宅の敷地をフェンスで囲うことが普通になり、人々の意識は自分が暮らすマンションの敷地内に向かうようになりました。つくばの街を歩いて感じた寂しさは、この数十年の間に、公務員宿舎からマンションに建て替わることで、街と建物の敷地とが分離して、暮らす人の意識が街に向かなくなってしまったからだと思いました」。

マンションで暮らす人にとって、安心できるセキュリティはとても重要ですが、実は敷地境界線に街とつながる空間をつくることは、セキュリティにおいても有効な手段だそうです。

「人々が歩くペデストリアンデッキと建物の境界線に、あえて、人が滞留するようなデザインを用いることで、そこに人の目が向くようになり、その境界線の安全が保たれるようになっていきます」と、中津さんは言います。

街と敷地の分離はマンションだけでなく、公園にも起こっていました。マンションに隣接する竹園西広場公園では、公園ができた当初に植えられた常緑樹が敷地を囲んでおり、フェンスのように人目を遮ってしまっていました。これを受けて、今回のリニューアルでは、落葉樹に植え替えたり、園路を設けたりすることで、公園の敷地と外につながりを持たせられるような空間にデザインしました。

人が惹きつけられる構造と肌理(きめ)

芝生の上をはだしで遊ぶ子ども(2019年撮影)

家の中だけでなく街にも意識が向くようになると、人は少しずつ街歩きを楽しむようになります。街を歩いていると、時に自然と足が向いて公園へ行ったりもします。そして、目の前の芝生に座ったり寝転んだりすることがあります。これは人の意思はもちろんですが、ランドスケープによって自然と導かれているのだそうです。例えば通常、公園には座る道具として「ベンチ」が設置されますが、竹園西広場公園には、座る場所として「ベンチ」ばかりを設置するのではなく、空間に段差や傾斜を意図的につくっています。そうすることで、人々に公園に愛着を持つきっかけをつくりだしていると中津さんは言います。

「ベンチを設置すると、ベンチは『おれはベンチだ!早く座って!』と、人に命令する電波をビンビンと投げかけてきます。このように使い方の指令を人が自然と解釈することを、哲学の世界では『アフォーダンス』と呼びますが、その指令に従って人は座るために、ベンチを取り合うようになります。座れなかった人は敗北感に打ちひしがれることにもなります」。

しかし、階段の端や花壇の縁などの、ちょっとした段差や傾斜のついた地面などにも、人には「自分にとって居心地の良い場所」を発見する能力があるそうです。

「座る場所を、自分で『発見』して、自分で『判断』して、自分で『獲得』したとき、人は達成感を得ることができます。そこに座ってお弁当を広げると、今まで気がつかなかった空の青さや鳥の鳴き声、風のささやきなどを発見するかもしれませんね。そんな『発見』の多い達成感こそが、公園に対する『愛着』の源となっていくと考えています」。

そんな「自分だけの座る場所」を発見してもらいたいと、竹園西広場公園には、芝生のマウントやウッドデッキや園路など、あちこちに段差や斜面を「構造」としてつくりこみました。

このような「構造」の他に、ランドスケープデザインで中津さんが重要視していることに、「肌理(きめ)」があります。

「人ひとりがそこにいたくなる空間をどのように作り出すかについて、私は日々考えています。それは、人と地球の関係性です。人が歩いているとき、常に地球に接続していますが、触りたくなる、立ち止まりたくなる、座りたくなる、寝転びたくなるなどの行動には、何か『きっかけ』があります。そのきっかけのひとつが、段差や斜面などの『構造』、もう一つが、物の表面の肌触りである『肌理(キメ)』です」。

今回、竹園西広場公園のメインの広場には、タイルや木材、砂など数多くある肌理素材の中から、「芝生」が採用されています。芝生は、ランドスケープ素材の中で唯一、「肌をすりつけたくなる素材」と中津さんは話します。

普段街を歩いているときや座っている時を、思い出してみてください。きっと、地球と接続するその点には、靴や椅子がフィルターとして存在していると思います。芝生には、そういったフィルターを通さなくても、心地よく人がくつろげる、くつろぎたくなる場所をつくりだす力があるそうです。

「それぞれの家から公園に出てきて、みんなで座る。交流するでも話すでも、一緒に遊ぶでもなく、ただみんなで同じ地面の上に『座る』ことの価値を創り出したいと思いました」。

イベントで意図的に作り出されるコミュニティではなく、自分の意思で外に出てきて座るだけの行動を導くためには、「芝生」が視覚的に作り出す「肌理」が最も有効だという判断だったそうです。

ランドスケープデザインで、人と人をつなぎたい

取材の最後に中津さんは、ランドスケープデザインで最終的に成し遂げたいことは、人と人を繋ぐことだと教えてくれました。
「私たち設計者は、空間を設計する事が仕事です。けれど、それは手段であって目的ではありません。街のランドスケープ設計を通して、人と人の関係を創ることが目的なんです」。

ランドスケープデザインを通して、住まいを超えて街に関心を持つ人が増え、公園や街を楽しむ人が増え、その先には、人と人のつながりが生まれます。つながりとは、必ずしも大げさなものである必要はないと中津さんは言います。人が座っていれば、その前を通る人と「ちょっと失礼します」といった会話が生まれるかもしれません。挨拶が交わされれば、それはさらに嬉しいことです。
誰も立ち止まらない、誰も座っていない、誰も関心を持っていない、ただの通り道では、そのようなつながりは生まれません。ランドスケープデザインは、その小さなきっかけを生み出すものです。

普段、ただ歩いているだけの公園にも、実は、ランドスケープデザインが私たちの心に呼び掛けている「きっかけ」がちりばめられているかもしれません。
みなさんもぜひ、公園に訪れた際、少し気になる場所があったなら、ぜひ足を止めて座ったり寝転んだりしてみてください。ランドスケープがくれたきっかけに身をゆだねて、のんびり楽しんでみてはいかがでしょうか。

撮影:森カズシゲ

中津秀之(なかつ ひでゆき)

関東学院大学 建築・環境学部 准教授
ランドスケープ・デザイナー。「こども環境」研究者。

集合住宅・公園・園庭等のランドスケープ設計を通して、世代を越えた人と人の繋がりを創出している。一般社団法人TOKYO PLAY/理事。公益社団法人こども環境学会/評議員。千代田区/景観まちづくり審議会委員。横浜市/都市美審議会委員。三浦市/緑の審議会委員長。逗子市/環境審議会委員。横浜市/瀬ヶ崎小学校学校運営委員。日本学術会議/子どもの成育環境分科会調査小委員会委員。他、多くの委員会活動を通して、自然環境を活かした「まちづくり」の基盤創出を啓蒙する一方、子どもの遊び研究を通して、団地再生や地域活性化の活動を支援している。
兵庫県芦屋市出身。帯広畜産大学、筑波大学大学院、ハーバード大学大学院、建設会社勤務を経て、2000年より関東学院大学准教授。「有限会社サイトワークス・ランドスケープ研究所」主宰。https://site-works.jp/