100人カイギ 誰にでもできる意識の変革

今回紹介するのは100人カイギという取り組みです。このカイギは高嶋大介さんが考えたもので、2016年に港区で実験的に始めた取り組みでした。今では様々な場所で開催されています。
毎回5人のおもしろい地域のゲストスピーカーを呼び、自分の仕事について話をしてもらいます。イベントでは最初に、参加者同士の自己紹介を数回繰り返して、お互いに顔見知りになるようになっています。そして5人の話、それぞれの思いを聞きます。そのあとは、その感想をまた参加者同士がシェアするというフォーマットです。
ゲストスピーカーが100人に達したら、つまり20回おこなったら100人カイギというイベントが終わるというのもポイントです。自分の住んでいる地域や、近くの地域での開催を見つけて足を運んでみてはどうでしょうか。

この仕組みの面白いところは、参加するにつれて、人と繋がっていくことが面白くなっていくことです。人への興味が自然と湧いてくるのです。色々な生き方や働き方をしている人を見ることで、自分の中にある「人とつながりたい」という欲求に気づいていきます。人との関係性を深めるために、自分のできることを積極的に探すことにもなるでしょう。そして何より自分の知らない領域のことを、自分の仕事と無関係に聞くことで、内容を評価することなしに聞き入れることができるのです。聞けば聞くほど、それぞれの生き方に深さや哲学があることにも触れていくことになるでしょう。

私たちはビジネスの世界で、対価をめぐって生きてきました。成果指標やゴールを設定することが求められてきました。しかし今、社会は大きく変わろうとしています。ビジネスのみならず経済や社会の仕組み、また意識の大きな変化がおきているようにも思うのです。
例えば経済の仕組みではAirbnbやUberを始め、シェアリングエコノミーと呼ばれるようなビジネスが、私たちの働き方や生産・消費の仕方に衝撃的な意識の変革をもたらしました。信頼をベースにした新たな経済圏を作りだそうともしています。この共有経済圏は、今までの金融資本主義とは大きく違って、信頼をベースに個人と個人が直接関係性をもつことで対価を支払うというモデルです。こうしたビジネスを支えるためのインターネットやスマートフォンなどのデバイスや人工知能の発達なども、我々のビジネスのあり方を変える要因ともなりました。
一方私たちの社会では、人口縮小は経済の縮小を意味し、成熟社会に向かって新たなビジネスモデルをどう起こすかということが多く議論されています。
しかし多くの企業にとって、今まで作ってきた企業文化や思考方法を変えることは、簡単なことではありません。急速なスピードで変化する社会の中で、新たなビジネスを考えるためには、今までの延長線の枠組みでは進んでいかないことはわかっています。それは、企業の収益を支えているメインのビジネスモデルを、簡単には変えることが出来ないからです。その今までの価値観から逃れるためには、まずは自分のいる環境を今までとは違う環境に移動させることから始まるのかもしれません。つまり、個人個人のトレーニングが必要なのです。

そうしたなかで、勤務時間外に会社の自分を離れて、外の社会と繋がっていく100人カイギへの参加は、誰にでもできる小さなチャレンジです。企業人としての殻を捨て、自分の生き方の模索を始めるのです。人との出会いは、多くの気づきを生み出します。そもそも人と繋がっていくということは、信頼関係の構築です。お金や地位ではつくれません。効率性や合理性も通用しません。逆に手間暇かけて関係性をつみあげていくのが信頼関係です。今までのビジネスで求められていたものとはまったく逆でしょう。しかし、よく考えてみると、楽しいとか、豊かだとか、幸せだとかいう人間の感情は、この人との繋がりから生まれてくるのです。人は会社での地位や報酬以上に、自分で自分の価値を見出したいと思うものです。100人カイギへの参加は、自らの生きている証をみつける作業ともいえるのです。

100人カイギ、現在すでに17箇所で開催され、8月までに26地域での開催が決まっています。ぜひ一度のぞいてみるのはどうでしょうか。近くで100人カイギがなかったり、積極的に興味のある人がいれば、自分が主催者になることも可能です。小さな一歩ですが、時間がたつと大きな変化がおきているような気がします。そうしたトレーニング期間を経て、もう一度、企業の中での新たな事業やサービスについて考えても遅くはないような気もします。みなさんのご意見をお寄せください。

高嶋 大介(たかしま だいすけ)
一般社団法人 INTO THE FABRIC 代表理事
100人カイギ founder/見届け人
富士通株式会社 マーケティングコミュニケーション統括部 デザインシンカー
大学卒業後、大手ゼネコンにて現場管理や設計に従事。2005年富士通入社。ワークプレイスやショールームデザインを経て、現在では企業や自治体の働き方、将来ビジョン、組織戦略などのデザインコンサルティングや、デザイン思考をベースとした人材育成などに従事。「社会課題をデザインとビジネスの力で解決する」をモットーに活動中。
2017年に複業の会社公認を受けパラレルで活動を始め「働き人をゆるくつなぐ」場創りを行う
100人カイギHP | https://100ninkaigi.com/