日常の見直し　トイレを考える

2020.10.23

トイレの中で何をしますか。

トイレは家のなかで唯一、言い訳をせずに一人になれる場所です。一昔前であれば、どの家にも書斎があり、書斎が人目を気にせずに自分の時間を過ごせる役割を果たしていました。しかし近年、住居面積の縮小から書斎が消滅し、家の中で一人になれる場所はトイレぐらいになってしまったようです（今回の新型コロナウイルスの影響で、書斎は復活するかもしれません）。
トイレの歴史を遡ってみると、トイレはその機能の特異性から、匂いや音を避けるという意味で、古くは「川屋」といわれる、川に直接用便をする、住宅とは離れた場所にあるものでした。しかしトイレの性能の向上は目覚ましく、1950年代には水洗トイレが普及し、1959年には洋風便器が誕生。1964年には温水洗浄便座が発売になります。汚いものという嫌悪の対象だったトイレは、清潔が保たれ、次第に家の中心に設置されるようになります。そして徐々に、用をたすだけでなく、一人になれる場所として家のなかで存在感を増していきました。
（株）LIXILが2011年行ったアンケート「トイレに対する意識調査」では、女性の回答者でトイレは「便所としての機能」より、「気持ちのいい部屋」、「居心地のよい空間」として捉えている人が多いことがわかりました。また、トイレという空間は「一人になれる場所」、「考え事ができる」、「気持ちを落ち着かせることができる」など、リラックスできる空間として捉えられていることも、このアンケートから分かっています。機能面では「清掃性や機能性」よりも、「収納」や「余裕のある広さ」が求められていました。トイレは心理的にリラックスでき、見た目にもゆとりがあることが重要なようです。この調査は女性の回答者を中心に分析がされたものですが、コロナ禍で一人になれる時間が減っている昨今では、性別にかかわらずこのように思う人も増えているのではないでしょうか。

ある料理評論家は、「その店のトイレを見れば、旨いかどうかわかる」とジョークを言っていましたが、それは清潔感や飾っている物、照明の明度で、店主のセンスや店の品格が伝わるからだと思います。しかし実際の住宅のプランニングでは、限られた専有面積の中で、トイレよりも、居室や収納の設計を優先してしまい、トイレを楽しむ余白を作ることは困難です。
そこでトイレの面積を最低限広げて、便座に座った時の目線の位置にカウンターを設置して、空間を広く使うこと考えました。カウンターには、お花やアロマなどの小物を飾ることはもちろんですが、スマートフォンを置いたり、雑誌や新聞を持ち込んだ時にも便利です。好きな本を並べて本棚のように使うこともできます。また、立ち上がる時の手すりとしても使えます。カウンターの下はオープンな空間なので、子ども用のトイレ用品を置いたり、掃除もしやすく、見た目にも広々と感じます。

間取りを考えるという視点では、トイレの場所を思い切って奥の窓側に設けるという方法もあるかもしれません。過去には山本理顕が「バンビル」（2001年）や「東雲キャナルコート1街区」（2003年）で、トイレをいちばん奥の窓側に設けることで、これまでとは「反転した水まわり」をつくったことがありました。明るく、見晴らしの良い空間でリフレッシュにもつながることでしょう。このほかにも高齢になったときの生活を考えて、寝室にトイレを設置したり、トイレという部屋を無くして、後付けでどの居室にも、トイレが設置できる移動式トイレというのもあるかもしれません
また、面積が限られているなかで開放感を持たせるという観点では、トイレの扉を外して開放感をつくるという方法もあります。清家清は、周囲から見えない場所にトイレを設置し、トイレから扉を取り外しました。常に扉があいた状態のトイレを想像してもらえればと思いますが、そうすることで限られたなかで開放感を作り出したのです。ニュースサイト『しらべぇ』が2015年に一人暮らしを対象にした調査では、トイレで用を足すときに扉を開けたままにしているという人が30%もいたそうです。トイレの扉を外すという選択も意外と受け入れられるかもしれません。

これまでもトイレは一人になれる場所として家のなかで役割を果たしてきましたが、コロナ禍がゆえに、今までとは違うストレスも抱えている日常において、改めて「一人になれて、ちょっとホッとする空間」として、トイレの居心地が重要になっているように思います。みなさんはトイレの中で何をしますか。是非、ご意見をお寄せください。

ミニアンケート

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