日本の伝統文化
「いただきます」と「ごちそうさま」
「いただきます」「ごちそうさま」。
現在では一般的になったこの言葉の歴史は、そう古くはありません。ここ100年ぐらいのことです。しかし日本以外の国では食事を始めるときに、定型のこうした言葉がある国はないように思います。「いただきます」とは、みんなで一緒に食事をする合図のように考える人もいますが、それは現代になってからのことです。100年前は、日本では箱膳(はこぜん)といって、一人ひとりが食事をし、とくに家の主人が先に食べ、女性や子どもはあとから食事をしていました。サザエさん一家のように、一家団欒の食事は、戦後の生活の理想像で、一緒に食べるというのは、最近になって表れた家族の風景なのです。
さて「いただきます」という言葉。これは諸説ありますが、ここ100年ぐらいの言葉です。そして、この言葉は日本の文化と深くつながっています。日本の節句や祭事では、神人共食(しんじんきょうしょく)といって、神様にお供えしたものを「いただく」という風習が古くからあります。お供え物は、特に節句や祭事では重要です。例えば、お正月に飾る鏡餅もその一つです。年末から年始にかけて、家々の幸せを祈って訪れる神様のより所として、お供えをするのが鏡餅です。鏡餅はより所であると同時に、神様が力を宿す縁起物でもあります。ですから、鏡開きの日になると、餅をたたき、力を宿したお供え物を家族でいただくのが習わしとなっています。「いただきます」は、こうした神様へのお供えをいただくという語源でできたようです。
この「いただきます」ですが、時代を経て、別の意味を持つようになります。食べ物への感謝の気持ちです。これは神道でなく仏教の教えからきます。生き物を殺して、その命をいただくことに感謝すること、そしてそれを調理してくれた人に感謝すること。またこうして食事を一緒にできる家族や友人に感謝するという意味なのです。それはキリスト教の食前の祈りに似ているかもしれません。そして今では「いただきます」はそうした心持ちで、一緒に食べましょうと心を合わせていくことに使われます。
また「ごちそうさま」は、漢字で「御馳走様」と書きますが、美味しいものを走り回って集めてきたという意味だそうです。かつて保存ができなかった時代に、おいしいものを集めてきたことへの感謝から生まれた感謝の言葉です。「馳走」という言葉は仏教において、人のために走り回るという意味で使われており、「ごちそうさま」も「いただきます」に同じく仏教の感謝の教えからきていることがわかります。
こうした食事をするときの定型句があるのは日本だけだと聞いたことがあります。とてもおもしろい話です、そしてこれからも守っていきたい日本の文化のひとつです。
ご飯を食べるときは家族では一緒に「いただきます」と言えるといいですね。
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