コミュニケーションの仕方を考える
【連載】コミュニティについて vol.07
今回はコミュニケーションということについて考えてみましょう。コミュニティへの参加にとって、コミュニケーション能力が重要なことはいうまでもありませんが、今、このコミュニケーションの考え方に大きな変化が訪れています。コミュニケーションの基本は、「話すこと」でなく、「聞くこと」だと言われ始めているのです。かつては、自分の考えを伝えることが大事だと考えられていましたが、どうも逆のようです。これは、私たちの社会の捉え方に、これまでと大きな違いが現れているためです。
私たちは社会の規範や合理性、または科学といったものを、誰かが決めたものと考えがちです。また「私」という主体があって、その「私」が社会を認識しているとも思ってきました。
しかし、私と私の周りとの関係性が社会を決めているといったら、みなさんは理解できるでしょうか。私という主体でなく、周りとの関係性というところに注目するのです。
たとえば、「科学的にこの色は赤です」と言っても、周りの人全員が青だと言えば、その社会ではその色は青になります。もちろん科学を否定するものではありませんが、周りとの共通の理解や合意によって、そのコミュニティの規範が生まれます。
そして人は、1人の人であっても、様々なコミュニティに属しています。会社、学校、地域、家族、様々な種類の友人や知人など、そのコミュニティごとに周りとの関係性によって社会が成り立っているのです。そしてそれは、言語によってお互いに理解されているという点も重要です。
この考え方はナラティブアプローチという心理学の用語を使って説明されることが多いのですが、ナラティブとは「物語(ものがたり)」と訳されます。「物語」とは、その語り手の属する社会のフレームを意味します。規範とか構造とかといってもいいでしょう。その人が規範とする価値はそのコミュニティ内で、つまりその人とその人の周りで作られています。
人と接する時、相手のことが良くわからないということが、あるでしょう。しかしそれは相手の人ではなく、その人と他の人との間で築かれた物語がわからないということなのです。物語を読むように、その人の世界観を想像しながら話を聞いていきます。たとえ自分が理解できなくても、まずは相手の物語をそのまま受け入れてみます。
私たちは普段、相手の話を聞くということをしているようで、実は自分の話に置き換えてしまいがちです。協調するのでもなく、反論するのでもなく、ただ受け止めていく。そして相手に共感していきましょう。まずはしっかり聞きながら、相手の物語をわかっていくという態度が必要です。自分の物語とは違うということを前提に話を聞いていきます。この聞くことから始めるコミュニケーション、これは大きな思考の変化だと言えます。
ここでは、2つの本を紹介します。
マーシャル・B・ローゼンバーグ著
NVC とは、(Nonviolent Communication=非暴力コミュニケーション)の略称です。
NVCについてのプログラムは、研修として多くの場所で開催されています。
言葉とは常に暴力性をもっています。戦争もこの言葉の暴力性から生まれます。もし戦うことなく、人々がお互いを理解し始めたら戦争などなくなります。理解し、共感することから始めていくコミュニケーションの仕方をNVCといい、この本ではその手法を具体的に解説しています。頭で理解していても、人の言葉に腹を立てたり、感情を動かされたりするのが人間です。その時にどのように対処していくのか。自分自身の感情を、どうコントロールしていくのかなどについて書かれています。これは頭で理解するよりトレーニングも必要です。インターネットでの研修などもあるようですから、この本を読んだ後、是非一度参加してみるとよいかもしれません。
ケネス・J・ガーゲン&メアリー・ガーゲン著
この本では先に述べた「関係性が社会を作っている」ということが、わかりやすく説明されています。先に説明した「物語」が言葉によってつくられる関係性であるなら、そこで生まれる「物語」を、再び言葉によって書き換えられるという考え方の紹介です。
たとえば悲劇的な自分の過去も、違う視点でもう一度その過去を語り直してみることで、これまでとは違う側面が見えてくることもあります。また危機的なことに直面しても、それをチャンスにしていく物語に書き換えることもできます。わからない人の話でも、自分の物語を一度脇に置いて、相手の物語で理解することは可能です。ここでも人の話を丁寧に聞き、観察し、受け止め、理解していきます。そして相手の話から自分の物語を書き換えていくことができるというのです。是非一度読んでみてください。
おわりに
今回は長い連載でしたが、いまだ「コミュニティ」については十分書ききれてはいません。まだまだ考えることはたくさんありそうです。一旦、今回のコミュニティのシリーズは終わりにしますが、また第2弾を考えてみたいと思います。第2弾では「シェアビジネス」のような新たな経済圏のことや、「人工知能」などのテクノロジーの進化とコミュニティについて。「教育の問題とマイノリティと多様性」について。「高齢化と少子化」、「行事や節句などの共同体の行事」など、まだまだ触れていないことがたくさんあります。
みなさんからのご意見などを伺って、さらに考えてみたいと思っています。ぜひ、みなさんのお考えをお寄せください。
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