社会の課題と自分を重ねていくこと(地域編)
【連載】コミュニティについて vol.05
今回で5回目です。前回の「自分の成長のためのコミュニティ」に続いて、地域や会社、趣味といった、自分の所属するコミュニティにどう貢献するか、ということを考えてみます。
これは、自分が生きている意味や価値を確認していくプロセスです。
人は何かに、また誰かの役に立ちたいと思って生きているのが常です。それは、人の幸せが自分の幸せだ、と感じられる感覚とも言えるような気がしています。年齢の高い人ほど若い人に比べて、ボランティアをしたいという人が増えるのもわかります。ある程度、生活に余裕が出来てきたとき、周りの人のために何かできることがないか、と考えるのは普通の感覚です。・・・という思いが芽生えるのかもしれません。
また現代は、多くの社会課題を抱えているのも事実です。戦後発展してきた経済は成熟を迎え、高齢化や少子化にともなう福祉の問題、貧困の問題、環境の問題、教育の問題、子育てや児童虐待などといった様々な課題が身の回りにあります。こうした問題に貢献するために、自分のスキルをNPOなどに提供して、地域活動に関わっていくという方法もあるでしょう。または、自分が主体的に何かの活動を始めるということもあるでしょう。
社会の課題を自分ごととして、そして自分の暮らしの問題として捉え、関わりはじめるというプロセスがありそうです。
事例1:NPOを支援するNPO 認定NPO法人 サービスグラントの活動
プロボノという活動を知っていますか。NPOの活動を支援する「認定NPO法人サービスグラント」の嵯峨生馬さんの活動を紹介します。
サービスグラントは、プロボノワーカーとNPOをマッチングする組織であり、同時にその名前が表しているように、お金で助成(グラント)するのでなく、スキルやノウハウといったサービスで助成をする仕組みです。
プロボノとは、企業の人が自分のスキルを活かしてNPOの支援をする活動です。サービスグラントでは、支援先のNPOを募集し、そこから選ばれた団体に対して、5名ほどのプロジェクトチームをつくります。プロジェクトの内容は、①パンフレットやウェブなどの情報発信、②営業資料や寄付管理などのファンドレイジング、③業務改善のための組織運用マニュアルや業務フローの見直し、④事業計画やマーケティングなどの事業戦略、といったカテゴリーでプロジェクトをサポートします。
一般的にNPOは想いがあっても、お金も人も不足しがちです。そこで通常であれば時間もお金もかかる作業を、プロの人がボランティアでサポートしてくれるという、NPOにとっては貴重な機会となります。一方プロボノで参加する人には、プロボノ活動を通してNPOが抱えている課題やサービスの内容を深く知り、NPOの意義や社会の課題に向き合うことができますし、何より会社の外で自分のスキルが頼りにされていることや、具体的な成果へと短期間でつなげていくことで、達成感や自分のアイデンティティを手にいれることができるのです。
この活動に参加することで、プロボノ参加者は自然と社会の課題に敏感になっていくようです。会社の仕事と違って、のびのび自分の意思で取り組めることや、失敗を恐れずに挑戦できる環境が、かえって多くの成果をつくりだしたり、自分のもっている知見を活かしながら、新しい仲間と一緒にプロジェクトをすることで、スキルが上がったりします。またクライアントから感謝されることで、大きな自信にもつながっていきます。企業単位で参加するケースでは、この活動によって今まで接点がなかった人同士が知り合う機会にもなります。
プロボノに参加することで社会課題に目を向けた人たちが、自分たちの企業の社会的役割を意識しながら、本業でも活躍していくという絶好の機会になるに違いありません。
認定NPO法人サービスグラント
https://www.servicegrant.or.jp/
事例2:秋田県・五城目町 株式会社ハバタクの活動
この活動については、以前取材コーナーでも紹介しました(2019年8月9日配信「ハバタク “世界とつながる秋田・五城目町をつくる”という新たな試み」)
この活動は、丑田俊介さん(ハバタク株式会社で共同代表)が人口9000人の里山・五城目町で始めた活動で、地方の活性化と、地方での働き方の可能性を追求したものです。
丑田さんは2014年に縁もゆかりもなかった秋田の五城目町に移住。それ以降、都会からの移住者の支援をしたり、地域おこしの核をつくったり、市の教育プログラムを考えたりしています。
移住した当時、丑田さんの中では、「先の見えない、正解のない時代に、どうすれば持続可能な社会のあり方を日本の足もとからつくっていけるだろうか。日本のローカルから、世界にもっと魅せられることがあるのではないか」という問題意識が芽生えていた頃でした。
プライベートでも子どもが生まれ、自分の生き方や子育ての環境を含めて、これからの時代の働き方や暮らし方を、見つめ直してみたいと思っていた時でもありました。
「具体的なことはまったく想像していなかったけれど、住み始めたら何かが見えてくるのではないかという楽観的な気持ちで移住した」と丑田さんは当初を振り返ります。
丑田さんが始めた取り組みは5年の歳月をかけて実を結び始めています。廃校舎をシェアオフィスとして再生した「Babame Base」プロジェクトには、秋田県が推進する「ドチャベン・アクセラレーター」という事業創出プログラムで受賞した人たちも加わり、地域に根ざした事業が創出されています。
また築133年の古民家を“村”に見立てて再生させていく、「シェアビレッジ・プロジェクト」は、年貢(年会費)3000円を支払えば、誰でも古民家(村)に所属できると、クラウドファンディングで全国から862人の村民を集めることができました。
このほかにも、五城目で520年続く朝市に若者や30-40代の女性が出店して起業体験ができる「ごじょうめ朝市plus+」など、地域の人や移住者の人を巻き込みながら、地方の活性化と地方での働き方の可能性を追求し続けています。
ハバタク株式会社
http://habataku.co.jp/
事例3:宮城県気仙沼 認定NPO法人 底上げの活動
気仙沼で活動する「認定NPO法人底上げ」という団体では、高校生の子どもたちに勉強を教えながら、そこで「地元のためにできること」を考えるプログラムを行なっています。
子どもたちと街を歩き、地域の良さや楽しさに目を向けて、課題を発見して、どのように解決できるかを一緒に考えています。
その中のひとつのプログラムを紹介します。これは15人ほどの高校生のメンバーが、商店街の人にインタビューをしながら、「2人のスポット」という街のおすすめの場所や料理などを紹介する冊子をつくるプログラムです。この活動は毎年行われていて、その年毎に自分たちで冊子づくりの活動計画をたて、何種類かの冊子をつくって、街の人たちに配っているのです。この活動を通して関わった子供たちは徐々に街に愛着を持つようになると言います。この活動もすでに8年。当時高校生だった子どもが大学を卒業し、地元の行政に戻ってくる子が出てきたそうです。
地域に興味を持つことのきっかけを作っただけでなく、そうした気持ちを子どもたちの中で持続させ、将来地域に戻って地域のために働く若者を育てたことも、とても意義があることのように思います。こうした一覧の活動を受けて、単に地域の繋がりを取り戻すというだけでなく、底上げの活動は「豊かさ」とは何かという根源的な現代人の生き方への問いでもある、と代表の矢部さんは言っていました。
認定NPO法人底上げ
http://sokoage.org/
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