ものの持ち方と整理整頓

─ 美しく乱す

photo: Miki Chishaki

今回はものの整理整頓について考えてみましょう。多くの人がスッキリした家に住みたいと思っています。住宅の雑誌でも机の上にはなにも置いていないスッキリした暮らしの写真が多くみられます。また本屋を見渡すと収納術の本がたくさん売られています。

収納術の本には2つの種類がある

収納のもっとも大事な基本は2つと言われています。

1. 定位置: 使ったらもとの位置に戻す工夫。
2. 定量: ものをふやさない工夫や哲学。

収納術の本に書かれているノウハウは、この1について書かれているのが多いようです。しかし、そもそも多くの人の悩みは2にあるような気もします。そもそも少ないもので暮らすことがみんなの理想なのか、そのことも考えてみなければいけないように思います。

たくさんのものに囲まれて暮らす

たくさんのものに囲まれていながらも美しく暮らしている方がいます。以前そうした方を取材したときに、その方は「もの」でも「人」でも長い時間をかけて関わりを続けていくことが大切だと言っていました。良いものを長く使うこと、そして長く関わるから良いものへとさらに変わっていく、とも言っていました。使い込まれた料理道具や食器は美しいものです。家も長いこと磨き上げた床やドアノブには美しさが宿っていきます。収納の達人とは、綺麗に合理的に収めるだけでなく、この関わりを続けられるように、大事なものを長くもつ意思をもった人なのかもしれません。そして完璧に整っているというよりは、乱れも美しく調和されています。綺麗に掃除をした石庭に落ち葉を少し落とすようなものかもしれません。どこにも隙間のない張り詰めた空間は日常ではありません。かなりレベルの高いスキルかもしれませんが、ものの持ち方の理想をこのあたりに置いてみるのも良いかもしれません。

自分を受け入れる

もうひとつ違う視点を紹介しましょう。辰巳渚さんという家事セラピストの方にお話を伺った時のことです。彼女の事務所にはうまく収納ができないことを悩んでたくさんの人が来ます。しかし綺麗に、また上手くしなければならないというその心にすでに問題があるそうです。彼女は家事を合理化の対象とするのでなく、大事な日常の一コマだと言っていました。息をするように家事をすることが大切なのだと。現代の社会では「家事労働」という言葉に代表されるように家事を労働と捉え、合理化の対象にしようと考えます。しかし、その向きあいかたに多くの問題があるのだと言っていました。生きている以上だれもが行う日常のこととして家事や片付けを捉えるのです。上手くいってもいかなくても大事なことは毎日すること。家事はたしかに大変です、時間もとられます。しかし時間を短縮するのでなく、「息する事」だと捉えて自然体で向き合うことが重要なのです。朝起きたら掃除をする、片付ける、朝食をつくる、食べたら片付ける、といったように当たり前のことと淡々と向き合っていく時に、家事のそして収納の達人になっていくのです。上手くいかない現実に悩むのでなく、上手くいかないことを受け入れてそれでも淡々とやり続けること、そこに家事が上達する極意がありそうです。先の関わり続けることと似ているところもあります。

家族のライフステージを考える

ものの持ち方には、家族のステージも大いに関係があります。一人暮らしの時、結婚してから、そして子育ての時期、子どもが大きくなって、また夫婦二人になって、そして一人暮らしになって、というように人々のライフステージは変わっていきます。そのステージごとに暮らしに必要なものや、ものの持ちかたへの考えかたも変わっていくでしょう。特に若い時はものを持たずに身軽に暮らしていても、子どもが生まれるとそうはいかなくなります。子どものものはどんどん増えていきますし、あとになっても子どもの思い出のものはなかなか捨てられないものです。しかし時期がくると家族の住まい方は変わります。子どもが巣立って行った時や結婚した時、リタイヤした時、また歳をとって伴侶と死別した時など、ステージごとに暮らし方は変わるものです。また年をとると生き方や考え方も変わっていきます。そういう人生の転機には、ものの持ち方を考えるいいチャンスかもしれません。必要なもの、大切なものを自らの意思で選んでいくということがなにより大切なように思います。

photo: Miki Chishaki

ものを少なくすることはもちろん良いことですし、そこに学びもあります。しかし思い入れのあるものを大切に取っておく、または見えるところに置いておくというのも暮らしの楽しさや豊さになっていくでしょう。たくさん持っていてもどこに何があったかコントロールできないようでは困りますが、「美しく乱す」というあたりに美意識の照準を合わせながら、掃除や収納のあり方を考えていくのもあるような気がします。

みなさんはどのように思いますか。ご意見をお寄せください。