「みんなの公園」の育て方 試行錯誤の1年半を振り返る
デベロッパーから地域に引き継がれる持続的なコミュニティ運営とは
茨城県つくば市竹園西広場公園で活動する市民団体「つくばイクシバ!」(以下、イクシバ)。「芝生育ては地域育て」をコンセプトに、2020年6月に設立しました。メインの活動は公園を利用する地域住民が月に1度集まり、公園芝生の維持管理を行うこと。芝生を「楽しみ、育て、見守り、輪を広げる」活動を1年半続けてきました。地域住民だけでなく、地元企業や公園に隣接するベーカリーカフェも参画しています。
2021年12月に運営を地域に引き継ぐにあたり、11月に座談会が行われました。団体の運営を地域につなぐ経緯や同公園にまつわるエピソード、活動持続の秘訣を伺いました。
座談会の参加者は、イクシバの発起人でありフージャースコーポレーション所属の大東、地元企業としてイクシバ活動に関わる一誠商事から田﨑さん、クーロンヌジャポンの運営するCafé Bourangerie Takezono店長の三代さん、地域住民として活動に参加する髙橋さんの4者です。現在、イクシバの団体運営は田﨑さん、日々の公園管理は三代さんを中心に行っています。髙橋さんは住民目線で公園を楽しむ代表として、それぞれの立場から、思い思いにお話しいただきました。
目次
・活動を持続させるためには、何よりも「楽しむこと」
・芝生育ての後は、公園について「話す」時間
・ゴザが生み出す、公園での心地よい時間
・公園をきれいにするのは「公園を使う人」
・誰かに任せるのではなく、「関わるみんな」で解決
・今後の活動方針
・プロフィール
活動を持続させるためには、何よりも「楽しむこと」
「持続可能性」を追求した結果、地元企業に代表を引き継ぐことになりました。団体内でも、「楽しく続けることが一番」という考え方が定着しているそうです。1年半の継続した活動に伴い、参加者の輪も徐々に広がりつつあります。
大東:なぜフージャースは団体を始めたのに出ていくのかと、疑問に思われるかもしれません。地域コミュニティは、地域住民の手による運営が重要だと考えています。東京の企業である私たちが運営し続けることは、地域コミュニティの理想形ではないと、立ち上げ前から考えていました。組織や活動の型をつくり、軌道に乗るところで、然るべき人へとバトンパスする。そうすることで、無理なく地元の色に染めていってもらいたいという考えです。代表の後継者には、特に頭を悩ませました。というのも、市民団体の運営では、後継者が見つからないことによって、活動の継続が難しくなる場合があるからです。仮に、住民の方が今回代表を後継してくれたとしても、そのあとが続かない可能性が高いと思いました。「持続可能性」を第一に考えた結果、地域と密に関わる地元企業に、代表として団体運営をしていただこうと思い至りました。
田崎:次の代表は私ですが、心もとないです。「ボランティアってなんだろう」「芝生ってどう育てるんだろう」と、芝生の本や色々なものを参考に、みんなで繰り返し勉強していきました。今も不安がないことはないですが、「なんとかなる!」というポジティブな気持ちで、みんなと楽しんで活動していきたいです。
大東:立ち上げ当初は、クーロンヌと一誠商事からヘルプをもらって、5名程度でやっと活動していましたよね。今は20名くらい参加者がいます。子どもが一斉に増えた感じがありますよね。
田﨑:フージャースのマンションの住民に周知されている感じもします。
髙橋:入居者だけでなく、周辺からも来るようになりましたよね。
大東:周知という点では、ベーカリーカフェ内につくってもらっているイクシバコーナーがとてもありがたいです。そこで看板を見たり、チラシを見てくれたりする方が多いようです。地域コミュニティの場として育ってきた実感があり、とても嬉しいです。
田﨑:参加者が増えているのは、活動自体が「楽しい」ことが大きいと思いますね。私も、イクシバは自分の趣味でもあります。自ら楽しんでやれればいいかなと思いますし、実際に楽しんでいます。コロナや天候の影響で活動ができなくなった時にも、1人でイクシバをやっていました。
大東:1人イクシバの様子もブログにあがっていましたね。
田﨑:通りすがったお母さんから「あれ、今日は1人ですか?」なんて声をかけてもらいました。そんな風に、近所の方も見ていてくれているようです。イクシバの存在は知っているけれど、まだ参加したことはない人も増えてきました。そんな方も、1年後は参加するかもしれないですし、活動を継続していく意味があります。
芝生育ての後は、公園について「話す」時間
公園を使う人が愛着を持ち、主体的に芝生を育て続けることがイクシバの目指す姿。そんなコミュニティをつくるための仕掛けを伺いました。
大東:イクシバは、基本的に固定メンバーを作らず、参加者はできるだけ流動的な構成でありたいと考えています。理想は「公園はみんなが使う場所。だから、みんなで居心地よい場所に育てる」ことです。固定メンバーもいますが、特定の誰かと言うよりは、公園を使っているみんなに参加してほしいのです。実は、参加者のうち、名前を知らない方もいます。初期に名前を聞くと「ここにずっと来ないといけない」とプレッシャーに感じるかもしれないと思って。だから、改めては聞かないようにしています。
田﨑:来たいとき、都合がいいときに来る!でいいですよね。実際、作業の途中で「やりたいのですが、参加してもいいですか?」と声をかけてくれるお母さんやお子さんも多い。活動の後に、公園で遊んで帰る親子もいて、公園利用と活動の境目がなくなっていくのがいいなと思っています。
大東:黙々と作業をするだけではなく、参加者のみなさんと話す場も設けています(冒頭図中の「プチトーク」)。これも参加者の方が提案してくれたアイデアですね。公園の絵を見ながら、子どもたちと大人が一緒になって、公園の現状や課題、好きなところを話せる場としています。そういう機会ってなかなか無いですよね。日々、公園を利用する人が、普段の様子を教えてくれるのはすごく嬉しいことですし、愛着にもつながるのではないかと考えています。
ゴザが生み出す、公園での心地よい時間
竹園西広場公園には、誰でも自由に使えるゴザが設置されています。この存在が、人の関わる公園であることを示す鍵となりそうです。
大東:イクシバの活動は、芝生の維持管理作業だけではありません。重要なことの一つは「ゴザ」です。ベーカリーカフェが管理してくれています。
三代:店舗のオープンとクローズに合わせて、ゴザの出し入れをしています。
大東:そもそも店舗の敷地外のことですし、スタッフのみなさんには、重いゴザの移動作業はとても大変なのですが、公園利用を増やすために行っています。椅子やベンチは、場所が固定されて使いにくい場合もあります。広場を自由に使ってもらって公園での滞在時間が長くなればいいなと思っています。
髙橋:毎日出し入れすることで、「ちゃんと公園を管理しているよ」というメッセージにもなりますよね。公園の管理に人が関わっていることを、間接的に伝える手段になっています。
公園をきれいにするのは「公園を使う人」
ゴザの管理の話から、公園に落ちているごみの話へ。どうすればみんなが大切に使う公園になるのでしょうか。ルールづくりではない解決法について考えました。
三代:管理している側からすると、ゴザにはデメリットもあると感じています。この間は、3枚が使いっぱなしになっていました。ゴザで芝生を楽しんでもらいたいですが、責任を持って使ってほしいですね。また、子どもたちがゴザを乱雑に扱うこともあり、劣化するのが早いです。芝生の話から少しそれますが、毎日ゴミが落ちているのも気になっています。最近は特に増えています。
大東:ゴザの回収と合わせて、ゴミ拾いもしてくれていますよね。一時期ゴミも減っていたのに、また増えてきているのか…。
田﨑:利用者が増えてこその問題でもありますね。
三代:最近よく見るのは、お菓子の袋が丸ごと。夏は、割れた水風船がたくさんありました。ちょっと残念ですね。子どもたちに直接言ったこともあります。「これ、ちゃんと拾って帰れよ」と言ったら、めちゃくちゃ引かれました。(笑)それでもやっぱり、ダメなことはダメと伝えたい。公園を使う人それぞれが、何ができるのかを考えて行動するだけですから。誰かがやってくれると思っているのはよくないです。今回は私が言いましたが、本当は近くの大人に言ってほしいこと。「ゴミが出るから食べるな!」というルールをつくりたいわけではないんです。「自分の家は掃除するでしょ?」と問いたいだけ。
大東:公園はみんなの共有財産ですから。使うみんなで、大切に扱いたいですよね。
髙橋:みんながきれいにしていけば、ゴミも落としにくくなるはずです。
三代:きれいな公園か、汚れている公園か、どちらがいいかと聞けば全員きれいな公園が良いと言いますよね。だったら、「公園を使う人」が行動を変えないと。「古い」と「汚い」はちがいますから。継続してやっていけば、後々雲泥の差になります。
大東:きれいにしたいと思う原動力は、「その公園が好き」という気持ちだと思います。使う人が愛着を持てる公園にしたいですね。
誰かに任せるのではなく、「関わるみんな」で解決
活動を続けていくと、思いもよらない出来事も起こります。本来なら、公園管理に対する意見の窓口は行政ですが、公園の顔となっているイクシバに寄せられることも。「みんなの公園」ならではの対応法を模索しているそうです。
大東:公園は通常、行政が管理しているため、何か問題があれば、行政に意見が届きます。この公園も、もちろん行政が管理していますが、こちらに苦情が来るときもあります。同じ立場で会話することができるので、すごくいいことだと思っています。
田﨑:「公園の山部分に穴が掘られてしまっている。看板を立てるなどして早急に対応してほしい」という意見がSNSに寄せられたことがありましたよね。でも、「一緒にどうしたらいいか考えましょう」と伝えることにしました。
大東:私たちももちろん、公園が荒れるのは防ぎたいです。ただ、やめさせたいからと看板を作っても、きっとまた別のところが掘られます。子どもたちにとっては楽しい遊びですから。そうではないアプローチをしたくて。行政じゃないからこそできる、「ここは”みんな”の公園だから、あなたも加わって対応してください」という姿勢です。
髙橋:以前に住んでいたこともあり、昔の竹園西広場公園も知っています。砂利があって男の子が少し遊ぶだけだったように記憶しています。つくばには公園がいっぱいあるけれど、イクシバのように、みんなが集まって「うちの公園をこうしたい!」と考え、みんなで良くしていく動きが広まっていけば面白いです。これからの日本の公園のスタンダードになっていけばいいと思います。
大東:この間、「俺たちの竹園西広場公園がグッドデザイン賞を受賞したぞ!」と言ってもらったことがありました。「俺たちの」ってつけてもらえたことが、本当に嬉しくて。
三代:自分たちで管理しているからこそのコメントですね。
今後の活動方針
イクシバで活動するみなさんにとっては、すでに「みんなの公園」になっているようです。定期的な活動を1年通して行うことは、基本的な考えとして共有されています。さらに、公園の可能性を広げるアイデアが、いくつも出てきました。
大東:芝生をメインに考えると、実は、芝生の休眠期である冬には活動する必要はありません。でも、毎月顔を合わせた方が、コミュニケーションが深まりやすいと思い、続けています。
田﨑:それに、冬には落ち葉がたくさんあるので、公園の維持管理としては必要です。落ち葉が排水桝周辺に溜まってしまうことで、公園の水はけが悪くなったことがありました。定期的な活動の大切さを実感しました。これからも変わらず、休眠期も活動していきたいですね。
大東:というわけで、イクシバでは年間通して定期的に活動しています。冬は寒いですけどね。
田﨑:そして、時間は1時間だけ。これが楽しく続けられる秘訣。楽しくないと意味がないですし。とにかく持続することが大事なので、無理をせずに、「ゆるく楽しく」をモットーに、これからも活動していきます。定期活動以外のイベントは、コロナの影響もありこれまでほとんどできなかったのですが、徐々にやってもいいかもしれないですね。芝生の上でのフリーマーケットや、ピクニックしながらおしゃべりとか。基本的な活動を一番重要視していますし、常ににぎやかな場所にしたいというわけではないのですが、公園の可能性は広げてみたい。
髙橋:ゴザがあって、パンもコーヒーもある。実は、イクシバでは、この公園がつくばで一番「ピクニックしたくなる公園」にしたいと考えています。つくばには、大きくて魅力的な公園はありますが、歩いて周ることのできる規模で、ピクニックしたくなるような公園は少ないと思っています。そんな場所が徒歩圏内にあることは、住民としてとても魅力的です。
大東:現在行っているヨガのように、公園をより有効に使うようなプログラムも増えるといいですね。公園は子どもたちが使うことが多いけれど、時間帯によっては大人の時間となってもいい。近くに住んでいる方が自分の特技を生かして、公園を活用できるようになったら素敵ですね。
公園に関するエピソードや想いが尽きず、終始にぎやかな座談会となりました。デベロッパーの始めた活動が1年半かけて地域に馴染み、バトンが渡されました。芝生育てを軸に、様々な仕掛けを通して公園への愛着を育む「つくばイクシバ!」。竹園西広場公園が1人でも多くの住民にとって「みんなの公園」となるよう、これからも芝生を「楽しみ、育て、見守り、輪を広げる」活動は広がっていきそうです。
髙橋 正義(写真左から1人目)
竹園西広場公園の近くで暮らす住民。つくばイクシバ!副代表(2021年12月より)つくばには15年ほど住んでいる。自宅から公園の様子がよく見えるため、芝生の育成状況の観察は日々の楽しみとなっている。
大東 絵理子(写真左から2人目)
株式会社フージャースコーポレーション所属。つくばイクシバ!発起人。2021年11月まで代表を務める。休みの日には、新たな公園の使い方に出会うべく、多くの公園を訪れている。
田﨑 洋子(写真左から3人目)
一誠商事株式会社所属。つくばイクシバ!代表(2021年12月より。座談会時・副代表)。本社が竹園西広場公園のすぐ近くにあるため、仕事の昼休憩でよく同公園に行く。子どもたちの遊ぶ姿を見るのがやりがいのひとつ。
【公園のある暮らしインタビュー vol.4】 一誠商事株式会社
三代 隆洋(写真左から4人目)
株式会社クーロンヌジャポン所属。竹園西広場公園に隣接するベーカリーカフェ『Café Boulangerie Takezono』店長。つくばイクシバ!会計(2021年12月より)。芝生の週次観察記録を担当している。畑仕事が趣味。
【公園のある暮らしインタビュー vol.1】パン工房「クーロンヌ」