隠し味を考える
皆さんの家では、カレーにどんな隠し味を入れますか。
ネットで検索しただけでも、りんご、ニンニク、コーヒー、チョコレート、はちみつ、生姜など隠し味は様々です。
隠し味とは、日本料理で昔から伝わる調理用語で、高級な料理から家庭料理に至るまで、料理における大切な味付けのポイントとして行われる、秘伝の手法です。自分だけの、この家だけの、この店だけの秘密の味付けや調理法として、今日まで大切にされてきました。
隠し味を辞書でひいてみると、「調理をするとき、全体の味を引き立てせるために、ほんの少し別の調味料を加えること」とあります。
例えば、スイカやお汁粉、甘酒など甘いものを食べるときに、ほんの少し塩を加えてみることで、甘みを引き立たせるなどが、まさにそれです。
この他にも、日本では隠し包丁という言葉もあります。
これは、味の染み込みや火の通りをよくするために、包丁で食材に切り込みを入れることです。多くの場合、盛りつけた時に見えない面に切り込みを入れることから、「隠し包丁」または、「忍び(しのび)包丁」と呼ばれます。
ふろふき大根にするために厚めに切った大根の片面に十文字を入れたり、こんにゃくやナスに格子状に切り目を入れたりすることは、皆さんもよく行っているのではないでしょうか。
人に気づかれないように、美味しさを追求するという意味では、隠し味も隠し包丁も同じことかもしれません。
以前知り合いが、評判の中華料理屋のチャーハンの味付けを知りたくて、毎日通い詰めたところ、広く一般的に使われている化学調味料を使っているのを目撃して驚いたという話がありました。しかし、そのチャーハンが美味しいのは、化学調味料を使っているからだけではないと思うのです。材料の選び方から始まり、具材の切り方やご飯の炊き上げ方、絶妙な火加減、盛り付ける食器など、料理を美味しくするための全てが揃ったから美味しくなったのではないでしょうか。何も調味料を加えることだけが隠し味なのではなく、その一つひとつが、隠し味として重要なノウハウとも言えそうです。
隠し味も隠し包丁も、食べる人のことを思って行う、おもてなしの心です。決してレシピには載っていないので、家族の間や、師匠から弟子へと引き継がれる大切な技でもあります。
「こうしたんだよ」と自分から主張することも時には必要ですが、それに気付く人がいることで隠し味は生きてきます。表立っては言わないけれど、美味しくなるようにと思って食材を加えたり、一手間を加える思いやり。そして、それに気づく余裕や感性。
あなたは、どんな隠し味を持っていますか。ぜひ教えてください。