3×3 Lab Future
ー個と個を豊かにつないでいく「CSVビジネス創発プラットフォーム」
田口真司さん
「大丸有地区」の通称で親しまれる大手町・丸の内・有楽町地区は、日本の経済活動の中枢を担うオフィス街。その一角に建つ「3×3 Lab Future」(さんさんらぼフューチャー)は、企業と企業、企業と個人、個人と個人がつながる、会社でも自宅でもない“サードプレイス”として、エリア内外のワーカーやさまざまな分野で突出するスペシャリスト、個人事業主など、業種や業態の垣根を超えた交流・活動拠点として親しまれています。3×3 Lab Futureのこれからを探るべく、その運営を担うエコッツェリア協会の田口真司さんにお話を伺いました。
3×3Lab Future。
それは、個と個がつながり、新しいことを生み出す「場」
3×3 Lab Futureは、ソーシャル・キャピタル=地域における人々の結びつきを基盤に、より良いまちづくりや社会課題の解決を目指す「CSVビジネス創発プラットフォーム」の活動拠点。出社前の時間を活用した“心・体・頭に効く”学びと体験の場「丸の内朝大学」や40~50代を中心とするビジネスパーソンの新たな学びと挑戦をサポートするキャリア講座「丸の内プラチナ大学」をはじめ、宇宙分科会などの「未来予測コミュニティ」や大企業とベンチャーの共創イベント、フードロス対策イベントから気仙沼メカジキ発表会まで、多様な人々がつながることのできるさまざまな交流会やイベントが開催され、日々多くの人で賑わいをみせています。
2016年より個人会員制度をスタートし、2018年度は約350人が登録しています。年会費は20,000円で、紹介者がいる場合は15,000円。田口さんいわく、ほとんどの人は紹介を受けて加入するので、月々わずか1,200円ほどの料金で、平日10~18時はコワーキングスペースとして開放されたスペースを自由に利用できます。
「会費で利益を出すことが目的ではなく、我々が取り組んでいるさまざまな活動に伴走してくれる仲間を募っている」と田口さんが言うように、3×3 Lab Futureには、加入希望者の仕事の内容や趣味嗜好などを面談でヒアリングし、既存の会員の人たちとつないでいく「ネットワーク・コーディネーター」という専任の女性スタッフが2人います。「都市部でのコミュニティ形成が難しいとされる状況下において、施設に来るすべての方たちのお顔や活動を把握した彼女たちが“人つなぎ”を担い、会員同士の交流を促進している。組織と組織はもちろん、個と個をいかにつなげていくかということを大切にしている」と田口さんは話します。
これからの時代のキーワードは、“社会課題の解決”
「多種多様な人が集まり、社会のさまざまな関心事についてみんなで話し合える場をつくりたい」という田口さんの発案のもと、2014年に前身の「3×3 Lab」として試験的に活動をスタートさせた3×3 Lab Future。わずか8ヶ月間で432回のイベントを開催し、25,546人の来場者が訪れるなど、驚異的なスピードで多様な人々が集える場づくりを丁寧に行ってきました。その後、志を共にする「中小機構TIP*S」(独立行政法人中小企業基盤整備機構)と共同運営した「TIP*S/3×3 Labo」においては、1年半の間に506回のイベントやワークショップを開催し、28,977人が来場。3×3 Labが、“多様な人々が混ざり合い、新しいことを生み出していく場”として世の中に広く認知されていく中、そこに集まる人々とじかに触れ、社会のさまざまな課題に向き合ってきた田口さんは、「今、ビジネスにおける価値観は変化の時を迎えていると感じる」と話します。
あらゆる企業が「どれだけ売れるか」ということに重きを置いていた時代では、業界シェアNo.1という共通概念があり、グローバル化の促進が叫ばれ、個人においては競争社会の中で自己の強みを活かし、いかに他者より優位に立つかが良しとされる風潮がありました。それに対し、「これからは、社会課題を解決できるのかということが企業の価値になってくる。グローバル社会をベースとした中で、逆にローカルをどう光らせていくか。業界トップを目指すのではなく、“三方良し”のマインドをいかに持てるか。自己の強みだけでなく、ソーシャル・キャピタル、ひいてはパートナーこそがアセットとなる。経済の停滞も想定される中、ただ上を目指すのではなく、360度の自由な方向性でものごとを捉え、他社や他者との共有・共創がより重要な時代になるのではないかと思う」と話し、これまでとこれからの業務フローの違いについて次のように説明してくれました。
「モノづくり時代(20世紀型)」では、商品やサービスの販売に至るまでの「市場調査⇒企画⇒開発⇒製造」のフローは、関係者のみで水面下で進めていくのが一般的で、反響や売上高といった定量的な外部評価が重要視されていました。対して、「モノ、コトづくり時代(21世紀型)」では、構想段階から多様なステークホルダーと共に創り上げていくという特徴があります。ラフ企画をもとにイベントやワークショップを行うなど、オープンイノベーションを創出するきっかけが多く生まれる一方、モノづくり時代のように、じっくり時間をかけて水面下で考える時間が減少する傾向にある中、「ミッションがしっかりと共有されているかどうかということが何よりも問われてくるだろう」と田口さんは話します。
オープンイノベーションの創出は、次なるステージへ
オープンイノベーションと言うと、「どんな商品ができましたか?」「どれだけ売上が上がりましたか?」と成果物や結果を求めるのが社会というものです。しかし、実際のところ、イノベーションの種を見出す前の段階、種が芽生え始めた段階、あるいは商品やサービスができた状態でコラボレーションするといったさまざまなステージがあり、目指すゴールもプロセスもそれぞれに違います。
ここでは仮に、オープンイノベーションの創出をめざす中でたどる段階を大きく3つに分け、2階建ての建物に見立てるとします。まず、ベースとなる1階は「コミュニティづくり」。解決するべき社会課題を見出すべく、仲間と出会い、話し合い、中立性の高いイベントやコミュニティの中から、フォーカスしたプロジェクトに転換していく段階です。次は、主要なプロジェクトの中からビジネスの“種”を見つけ、実証実験を経て、新規ビジネスの開発につなげていく段階。これを中2階とすると、続く2階はビジネス化して実践していく段階ということができます。
「モヤっとしたことをみんなで共有し、課題を設定して考えていくという、どちらかと言うと可視化しづらい段階での活動に注力してきた」と田口さんが言うように、これまでの3×3 Lab Futureは、“先の建物”の1階にあたるコミュニティづくりに力を入れてきました。今後はコミュニティづくりと並行して、プロジェクトを増やし、さらにはビジネス化までをも行うことを目標にした活動を進めていく予定です。「共同プロジェクトをうまく進めるためには、やはりイニシアチブを取る企業の存在が不可欠」と田口さんが話すとおり、プロジェクトの段階から企業の人が関わり、共に構想を築き上げていく必要性がおのずと生じてきます。プロジェクトをビジネス化して実践していくためには、“組織の枠組みを超えた協業”が極めて重要になってくるからです。
前述の通り、社会の課題を解決することが企業の価値となっていくこれからの時代、オープンイノベーションを通して新たに生まれるビジネスにおいても、「そこにどんな社会課題を見出し、どのように解決していくか」ということが大きく問われてきます。そして、その根底に根ざすミッションを実現するためには、企業内または企業を超えた仲間と手を携えて取り組んでいく自発的な姿勢が求められるのです。
「我々は、その実現のために良き仲間と出会える“場”をつくり続けていきたい。大丸有地区はもちろんのこと、さまざまな地域とともに社会課題に向き合い、それぞれの価値を高めるための活動を続けていきたい」と田口さんは熱く語ってくれました。
「企業がイノベーションを起こさなくてはならない」という風潮が強い中、数々のイノベーションがビジネスに向けて行われていることも確かであり、すべてを結果に紐づけて考えてしまうのはやむを得ないことかもしれません。しかし、今回の取材を通して思ったのは、田口さんの言う「可視化しづらい段階での活動」にこそ、真のイノベーションを生み出すための手がかりが詰まっているのではないのかということ。ビジネスに落とし込む以前の段階にあるものを深く分析し、考察していくことによって、未だ見ぬモノやコトが生まれていくということでした。みなさんはどのように思いますか。ご意見お寄せください。
田口 真司(たぐち しんじ)
3×3Lab Future プロデューサー/エコッツェリア協会 副学長
1972年岐阜県生まれ。1996年横浜国立大学工学部卒業後、通信機器メーカーに入社。2010年3月より企業に属しながらワールドカフェによる対話会を開始。企業で働く人や学生、NPO、主婦などあらゆる属性の人たちを集め、毎月テーマを変えたイベントを主催。2011年12月「企業間フューチャーセンター有限責任事業組合(LLP)」を設立。未来の社会について対話し、新たな価値創造に向けた活動を実施。2013年2月、三菱地所に入社し、現職を兼務。丸の内をオープンイノベーションのまちにすべく、新たな交流拠点「3×3Lab Future」の運営業務を通じ、ソーシャルビジネス創出に向け活動中。神戸大学経済学部非常勤講師。経済産業省「消費活動促進(おもてなし)プラットフォーム研究会」委員。日本経済団体連合会「起業・中堅企業活性化委員会企画部会」委員など。
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