シャワー、時々銭湯
日本人は無類の風呂好きです。湯船にゆったり浸かることで、心とからだの疲れやストレスをリセットしています。日本は火山が多く、温泉にも恵まれていることもあり、古くから温泉に親しんできました。けれど、実は日本の家庭に、当たり前のようにお風呂がある生活になったのは、この50年ぐらいのことです。
以前に欲しかった暮らしラボで行ったアンケート「【結果】単身者の暮らしについて vol.02」(2020年3月19日掲載)では、日々の入浴はシャワーで済まし、「週に1度浴槽にお湯を溜める」、もしくは「浴槽を使用しない」という人が48%と約半数いました。また「普段は家でシャワーだが、近くに銭湯があれば銭湯を利用したい」という人が67.3%いました(いつでも行きたい7.1%、たまに行きたい60.2%の計)。他に、「ミストシャワーがあれば浴槽は不要」や、「足湯で体を温める程度で十分」という男性が、25%でした。
現代人の忙しい生活においては、ゆっくりお湯に浸かる時間が取れない人や、夏場はシャワーで済ます人も増えているのでしょう。また、東京ガス都市生活研究所の調査結果でも、全年代においてシャワー派が増加傾向にあることが報告されています。住宅に浴槽は必要なのか、シャワーだけでもいいのではないかと考えてしまいます。
入浴の仕方は、その土地の気候に合わせて発展してきました。世界の入浴事情を見てみると、日本の入浴の特殊性が見えてきます。
高温多湿の日本では、汗や汚れを洗い流してから、お湯に浸かる習慣があります。また、昔の家屋は気密性が低く、冬場の浴室の寒さをしのぐためにも、湯船で温まる必要がありました。そのため、洗い場が別に設けられ、湯船には肩まで浸かって温まる習慣が付いたようです。
乾いた気候の欧米では、広いバスルームに浴槽だけが置かれているのが一般的です。洗い場はなく浴槽の中で体を洗い、シャワーで流します。また、浴槽もなくシャワーだけの場合も良くあります。これは空気が乾燥していて、あまり汗をかかず、毎日体を洗う必要がないので、お湯に浸かることが重視されていないためです。
極寒の地域ではどうでしょうか。フィンランドには、およそ320万軒ものサウナが存在し、9割ほどの人が週に1度はサウナを利用しています。サウナストーンと呼ばれる石をサウナストーブの上で熱して水を掛けて蒸気浴をする「ロウリュ」や、スモークサウナなど、サウナの種類も豊富です。サウナは家族団欒やリラックスの場でもあり、生活習慣において切り離せない入浴文化となっています。
熱帯のインドや東南アジアなどでは、水浴が中心で、お湯で身体を洗うことがありません。
日本のお隣の韓国では、家に浴槽があっても普段はシャワーで済ませます。週末に日本のスーパー銭湯のような施設(チムジルバン)に行き、数種類のお風呂や韓国式のサウナ汗蒸幕(ハンジュンマク)に入ったり、アカスリやマッサージをしたりして、一日過ごすそうです。
中国でも、家庭に浴槽はなくシャワーのみの場合が一般的です。しかも、乾燥した地方では、身体が汚れることもないので毎日シャワー浴びる習慣自体がないそうです。
このように、その土地の気候によって、入浴文化も様々です。世界ではシャワーが主流で、日本のように洗い場で汚れを流し、お湯に浸かってお風呂を楽しむのは、日本独自の入浴文化なのです。
最近では、湯船に入らない人の増加を受けて、ミストシャワーやホームサウナ、シャワーヘッドといった入浴設備も人気です。
ミストシャワーには、老廃物を落としやすい、身体が温まりやすいという特徴があります。温められた血流が循環することで、入浴後30分位は手足の先まで温まっているので、お湯に浸かるのが困難な高齢者や、小さい子どもとの入浴に最適です。
サウナブームで注目されているホームサウナには、「ロウリュ」ができるような本格的なフィンランドサウナや遠赤外線サウナなどがあります。マンションにも設置できるので、自宅でもサウナを楽しめます。サウナにもお湯に浸かるのと同じように、体を温めたり、長くゆったりと過ごせたり、発汗によるリラックス効果があります。
また、高機能のシャワーヘッドにも様々な種類のものが登場しています。最近では株式会社LIXILがクラウドファンディングの「Makuake」でプロジェクト達成した「KINUAMI U」も話題になっていました。これはシャワーヘッドから出てくる、高密度の”絹泡“で全身を包み込んで、さっと洗えるという商品です。きめ細かく弾力のある泡は保温性にも保湿性にも優れ、リラックス効果も。自宅のシャワーに専用機械を後付けするだけで、温水と泡とを簡単に切り替えることができるので、操作も簡単です。
こういった設備があれば、浴槽がなくても、体を温めたり、リラックスできたりと満足度の高い入浴ができそうです。シャワーだと健康効果が今ひとつという人にも、高い位置からお湯を全身に浴びるなど、浴び方次第では、健康効果につながるので、ぜひ取り入れてみてください。
先ほどのアンケートなどからみても、家族の形や生活時間の変化に合わせて、入浴の価値観も変化しつつあります。浴槽のない家があってもいいのかもしれません。
浴槽の代わりにホームサウナを設置して、家ではサウナとシャワー。お湯に浸かりたい時は、近所の銭湯やジムに行く。散歩がてらのお風呂も良し、家でサクッとシャワーも良し。気分に合わせてお風呂の入り方も多様に選べたら、暮らしにメリハリが出て楽しいのではないでしょうか。
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