人を繋ぎ、街に音楽を 服部管楽器

【表町商店街コロナインタビュー vol.8】服部管楽器 服部悟さん

岡山県岡山市表町の南部地区には3つの楽器店があります。その中の1つにフルートやクラリネットといった管楽器専門の服部管楽器はあります。服部楽器店が表町商店街に来たのは、今から10年前のこと。そして、今の場所にお店を移してから5年が経ちました。
管楽器修理の仕事を「高校生の頃から目標にしていた」という、服部管楽器の店長 服部悟さんにお話を伺いました。

音楽との出会いは、高校時代の吹奏楽部

服部さんと音楽との出会いは、周囲より少し遅く、高校時代の吹奏楽部でのことでした。
「高校生になって吹奏楽部に入りました。そこでフルートと出会います。ただ、このタイミングは音楽大学を目指すには遅くて。演奏を人前でしたいという気持ちもない中で、楽器に関わりたいという気持ちを叶えてくれるのが修理の仕事でした」。
高校卒業後、服部さんは迷うことなく、当時日本に3校あった楽器修理の専門学校のうちの1つに進学します。同級生は30人ほどで、その中でも管楽器の修理を選んだのは、ほんの一部と非常に珍しい選択でした。そして、専門学校卒業後は、さらに技術を磨こうとノルウェーのMusical Instrument Academyに進学し、管楽器の修理人としての腕を磨きます。帰国後すぐ、2004年に管楽器修理工房服部を、岡山駅から3駅の高島駅でスタート。2005年には、今の服部管楽器に屋号を変更し、常連さんからの勧めで表町商店街に移転しました。その後、東京の大久保にも店舗を構え、現在では、東京の店舗を入れるとスタッフも6名にまでなりました。

「修理」の幅を決めるのは自分

岡山県内で管楽器を修理できる人は、わずか10人ほど。中国・四国地方とその範囲を広げても、修理ができる人が限られていることから、服部さんの元には、県内外から修理の依頼がやってきます。また修理の依頼は個人に限らず、学校などからもあります。1本の楽器を預かると、一つ一つ手作業になることや、乾かしたり、水につけたりといった作業工程から、修理は1週間に及ぶこともあるそうです。
「管楽器の構造は至ってシンプルなので、穴を塞げば音が鳴ります。そのため、どこまで修理するかが修理する人に委ねられていることが、一番難しいところだと思います。奏者と会話しながら修理を進めていきますが、修理をする人に圧倒的な知見がなければ、奏者の希望を叶えることはできません。また、奏者がこれで良いといっても、楽器としては不完全なこともあります。修理とは言いますが、もしかしたら改造という方が近いかもしれませんね」と、服部さんは言います。

新型コロナウイルスを受けて

新型コロナウイルスの影響で、ネット通販や大型のショッピングセンターに人が流れ、表町商店街のいつもの賑わいは無くなりました。服部管楽器もこの影響を受け、4月から6月まで音楽教室以外は一時休業に。7月以降も、スタッフの数を調整しながら、今日まで営業を続けてきました。売り上げは、ほぼゼロまで落ち込み、非常に厳しい状況になった中、服部さんが目をつけたのが音楽教室でした。オンラインでのレッスンや、音楽教室にいながらも、講師と受講者が別々の部屋でレッスンを受けられることに可能性を感じたのです。
「岡山の店舗では1階の2部屋で音楽教室をしています。うちの音楽教室は、サックス、フルートは当たり前ですが、ホルン、チューバ、クラリネットといった周辺では習えない楽器が習えると人気なんです。今回の新型コロナウイルスで、この音楽教室も打撃を受けて、レッスン生は一時期5名ほどまで激減しましたが、最近は半分まで回復してきましたよ」。
ライブやコンサート、みんなで音楽を楽しむことが規制され、音楽業界そのものが非常に厳しい状況に追い込まれる中で、服部さんが音楽教室にかけた思いが、伝わってきます。

スタッフの夢の実現

音楽家を大切にしたい思いはもちろん、服部さんは、最近スタッフの夢を実現させたいと強く思うようになってきたそうです。
スタッフの中には音楽をしながら楽器店に関わりたい人もいれば、修理だけで生計を立てたいという人もいて、それぞれに夢があるそうです。服部さんは、どうしたら彼らが一番良い形で独立できるか、それぞれの夢を叶えてあげられるかを、常に考えていると言います。そのきっかけは、ある女性スタッフにありました。
「お店のYouTube動画を撮っているときに、あるスタッフにトランペットを吹いてもらったことがありました。その彼女の演奏が、とてもうまかった。スタッフの中に天才トランペッターがいることに気づいてしまったんです。彼女は東京の人と結婚したので、いずれは東京に行きます。彼女が東京で活動できる場所をと考えたときに、彼女を中心として演奏ができる楽器店が作れたら良いなと思って」と、うれしそうに話します。
「ありがたいことに、服部管楽器の名前で仕事が来るようになってきたことも大きいです。コンパクトなお店をスタッフ分用意して、みんながこの仕事で豊かに暮らせるようになってほしい。元々は、一人でやるのが楽だなと思うタイプです。でも、彼女との出会いが、私の考え方を変えました。屋号を統一して、フランチャイズというか、家族みたいな形で、それぞれの楽器店ができたら理想ですね」。

まちづくりへの挑戦

服部さんの挑戦は自分のお店に留まらず、街作りにも広がっています。
2022年、表町の千日前地区に、新しい市民会館ができます。その市民会館の開業に向けて、昨年10月には西大寺町の青年部のリーダーとして、表町で「音食祭」を開催しました。一日限定の野外フェスでしたが、アーケード内に音楽ブースを作って演奏したり、表町にゆかりのある飲食店の屋台を出店してもらったりと、大盛況になりました。また、今年の9月からは岡山シンフォニーホールと城地下駐車場を繋ぐ「城地下広場」(しろちか)にて、「しろちかパフォーマーズスクエア」と題し、毎週日曜日に音楽イベントも開催しています。
「市民会館ができるというだけでは、街に人は増えないと思います。商店街は、自分たちが働く場所ですから、自分たちの力を持ち寄って、面白いコンテンツを作っていくことで、人が集まり、街を盛り上げることが大切だと思います。今回の音食祭も、商店街の若い世代が結集して作り上げることができました。街は人です。人が繋がって、互いに影響されて、面白いものが生まれて、街ができていく。いつかそれが、自分たちの店にかえってくるような、そんな循環になると良いなと思っています」。
音楽というコンテンツを元に、人と繋がり、面白いコンテンツを作っていくことで、街も自分のお店も面白くなっていく。そんなことを教えてくれる取材でした。「しろちかパフォーマーズスクエア」での様子や天才トランペッタースタッフの演奏はYouTubeでもお楽しみいただけますので、ぜひ一度ご覧ください。

服部 悟(はっとり さとし)
1982年(昭和57年)生まれ。岡山出身。
岡山東商業高校出身。中部楽器技術専門学校出身。株式会社服部管楽器代表取締役。
表町音食祭で実行委員長を務める。
岡山市発のエンターテイメント吹奏楽団の「晴吹」や、月一の管楽器演奏会「れべま」を開催。 最近はしろちかパフォーマーズスクエアを立ち上げる。

Youtubeチャンネル
しろちかパフォーマーズスクエア